Column

健康経営

睡眠の質、特に閉塞性睡眠時無呼吸と歯科との関連

健康経営に取り組む企業を中心に、従業員に対する睡眠施策を行っている企業が多いのではないでしょうか。睡眠の質は仕事のパフォーマンスにも関わるといわれていますが、睡眠と歯科にも深い関わりがあるのはご存じでしょうか。
今回は、日本睡眠学会歯科専門医である佐藤一道先生に、睡眠と歯科、特に閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)との関係性についてお伺いしました。

国際医療福祉大学医学部 歯科・口腔外科学 准教授 日本睡眠学会歯科専門医 日本睡眠歯科学会 指導医・認定医 佐藤 一道

1998年東京歯科大学卒業、2020年より現職。国際医療福祉大学成田病院歯科口腔外科で口腔内科、口腔外科の診療に従事。閉塞性睡眠時無呼吸に関しては、院内の呼吸器内科、耳鼻咽喉科などと連携し、口腔内装置治療を行っている。

01 睡眠の重要性

「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」が厚生労働省にて策定された1)。睡眠に関しては各種メディアからの情報もあり、日本人の睡眠の重要性に対する理解が進んでいる。さらに、一流アスリートが睡眠を大事にするといった発言、働き方改革、WHOのアルコールを有害飲料とした警鐘が後押しとなり、就労世代の睡眠に対する意識も大きく変わりつつある。人はなぜ寝るのか、といったことも解明されていないように、睡眠に関して未解明な部分は多い。ただし、心と身体の休息になっていることは間違いないようである。
この睡眠に問題が生じると免疫力が低下する。また、循環器疾患、生活習慣病の罹患リスクを上げ、精神疾患へも影響する。さらにそれらによる勉強や仕事の効率低下は、社会経済的な問題につながる。この睡眠に問題を生じる疾患が「睡眠障害」である。睡眠障害には国際分類が存在し、60種類以上からなっている。

  1. 厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会 令和6年2月.健康づくりのための睡眠ガイド2023.
    https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf〔2025.7.7参照〕※外部のウェブサイトへ移動します

02 睡眠と歯周病(歯周炎)の関連性

歯周病原菌という言葉は一般にも認知されてきているが、歯周病(以下、歯周炎)は、う蝕(むし歯)と並び、口腔の感染症の代表である。
歯周炎管理の要点は、ブラッシングによる機械的な細菌を含む歯垢の除去だが、病態には宿主側の要因も影響する。特に、免疫力の低下は重要で、加齢の影響も受けるとされる。また、ストレス下では唾液量は低下し、歯周炎を悪化させる。さらに、喫煙は独立した影響因子となっている。加えて、前述したように睡眠の障害は全身状態に影響することから、歯周炎にも影響することは十分に推察される。
この睡眠と歯周炎の調査研究は進んでいるが、特に閉塞性睡眠時無呼吸(以下、OSA)との関連の報告が多い。OSAは睡眠中、舌が軟口蓋(上顎の奥にある軟部組織)にもたれかかることによって上気道が閉塞し、いびきや無呼吸を生じる睡眠障害の一つである。
いびきや無呼吸による換気の障害は、血中の低酸素と高二酸化炭素の状態を生じ、覚醒反応(本人の自覚なく、脳波上、起きた状態に戻されること)を引き起こす。深い睡眠を得られず、睡眠の質は低下し、概して患者は「いくら寝ても、寝た気がしない」といった感想を話す。日中の眠気が症状の一つで、コーヒーの多飲や喫煙習慣にもつながる。しかし、この自覚症状が乏しい患者も多い。重症例の場合、循環器疾患などの合併も高率に見られ、生命予後に関わる疾患である。
最近のシステマティックレビュー(臨床研究を網羅的に集めて解析した論文)では、10の観察研究が採用され、OSAと歯周炎に有意な関連がみられた2)。いびきは開口した状態で多くみられるが、開口した状態、すなわち口呼吸は歯周炎の病態を悪化させる。また、睡眠の障害が続くことによって全身状態や生活習慣への間接的な影響も考慮されている。これらは、歯周炎の管理に睡眠の重要性を加えていく、一つの根拠と考えている。

  1. Marco, P. et al. Correlations between Obstructive Sleep Apnea Syndrome and Periodontitis:A Systematic Review and Meta-Analysis. dentistry journal. 12(8), 2024, 236.

03 OSAと歯科の関連

日本のOSAの有病率は2,200万人、中等症以上でも900万人と推測されている3)。OSAの罹患頻度は高いことから、OSAと口腔の話をさらに進めていく。
OSAの発症に関与するものは多々知られている。加齢による筋緊張の低下はその一つで、特に女性は閉経後の筋力低下により罹患率が増加する。また、鼻腔や扁桃部の疾患も関連する。肥満はOSAの最も重要な危険因子として知られているが、欧米人に比べアジア人のOSA患者は肥満傾向が低い。アジア人では顎顔面形態、特に上顎や下顎が小さいことがOSAに影響するとされている。
歯科の専門診療科である小児歯科、矯正歯科領域では昨今、この点が話題となっている。そこで、小児期から、OSAの発症リスクの少ない顎顔面形態へ成長誘導することの重要性が理解され始めている。

  1. 佐藤 誠.睡眠関連呼吸障害(SRBD)の疫学.臨床検査.68(9),2024,1040-5.

04 OSAの治療手段としての口腔内装置

OSAに影響するとされる一方で、顎顔面形態は、OSAの治療手段としても利用されている。顎の骨を手術的に前方に移動させる治療で、上下顎骨前方移動術という。ただし、OSAの治療はNasal-CPAPと口腔内装置が中心である。

Nasal-CPAP:重症、中等症の患者に適応される。マスクから圧力のある空気が送り込まれ、閉塞した上気道を開くことで無呼吸を改善する治療法である。
口腔内装置:主に中等症と軽症の患者、また違和感などでNasal-CPAPが使用できない患者に適応される。

口腔内装置の一般的な形態は、下顎を前方に出した状態を上顎に固定したものである(図1)。

図1 口腔内装置の例

これらは、下顎を前に出すと、上気道が開くことを治療根拠としている。ただし、この開き具合には個人差があるため、口腔内装置が奏功しない患者もいる。装置は歯型によって得られた模型からオーダーメイドで作製されるため、歯の治療(う蝕や歯髄炎の治療)を終了している必要がある。また、新たに歯の治療を受けると装置が合わなくなり、再作製が必要となることがある。つまり、OSAの口腔内装置治療を受ける場合、口腔衛生管理が重要である。

05 OSAの治療に重要な口腔衛生管理

口腔内装置の使用によって、歯の詰め物やかぶせ物が外れることがある。また、まれに臼歯部が噛まなくなるといった咬合(こうごう)の変化がみられることもある。歯が少ない場合、義歯の形態を応用して装置の作製が行われるが、残った歯に、より負担がかかることになる。これら副作用に対応するため、定期的な診察が必要である。
定期的な診察では歯や咬合のほか、睡眠の状態も確認される。これは、加齢や肥満の進行によって、元々のOSAの状態が悪化し、口腔内装置の奏功が悪くなっていることもあるためである。OSAの症状は日中の傾眠に代表されるように、労働安全に大きく関わる。そのため、口腔内装置の使用状況は、定期的な診察での重要な確認事項となっている。
いずれにしても口腔内装置治療を受ける際、患者には口腔衛生管理が行き届いた状態で、永続的に経過観察を受ける必要性を理解してもらった上で、治療が開始されている。口腔衛生管理は、OSAの口腔内装置治療の重要なポイントである。

なお、口腔内装置治療による歯周炎の変化については未だ報告が少ない。重度の歯周炎患者に口腔内装置の適応がないためもある。現状では、OSAの口腔内装置治療によって歯周炎が改善するかどうかは、今後の臨床研究の結果に委ねられている4)

  1. Nathalie, M. et al. Effect of mandibular advancement appliance use on oral and periodontal health in patients with OSA:a systematic review. Sleep Breath. 28(2), 2024, 1005-17.

文責:メディカ出版

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