Column

オーラルケア

健康経営

口腔の健康状態と全身の健康状態はつながっている!
オーラルケアを習慣づけて生活習慣病を予防する

健康経営を推進していくなかで、「生活習慣病」は大きなテーマの一つといえます。
「禁煙対策」「食生活改善」「飲酒の影響」などは特に関連の深いテーマであり、取り組みの中心にされている企業様も多いのではないでしょうか。
今回は、生活習慣病や全身健康につながる口腔衛生と、「タバコ」「食生活」「飲酒」との関係について専門家にご紹介いただきます。

福岡歯科大学 口腔保健学講座 口腔健康科学分野
谷口奈央

1998年に九州大学歯学部を卒業後、同大学院に進学し、2002年に博士(歯学)を取得。日本学術振興会特別研究員としての研究活動を経て、奥羽大学歯学部、福岡歯科大学に勤務。2022年より現職。日本口腔衛生学会・日本口臭学会では、理事・指導医・専門医を務めるほか、日本産業衛生学会産業歯科保健部会では幹事として産業歯科保健分野にも取り組んでいる。

01 生活習慣は口腔内にあらわれる

「タバコ」「食生活」「飲酒」は、就労世代における生活習慣病予防の重要な対策項目であり、口腔の健康を維持する上でも極めて重要である。口腔内の状態は比較的自覚しやすく、なかでも「歯の色」「歯並び」「口臭」などは対人関係に影響を及ぼすことから、就労世代の関心が高い。これらの口腔内の状態が生活習慣と密接に関係していることを理解することは、自身の行動を見直すきっかけとなる。その点で、口腔の健康は行動変容を促す上で有効な切り口であるといえる。

02 「タバコ」の影響

タバコは、がんをはじめ、脳卒中や虚血性心疾患といった循環器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や結核などの呼吸器疾患、2型糖尿病など、多くの全身疾患と深く関係している。能動喫煙においては、タバコは口腔への影響も大きく、口腔がんや歯周病(歯周炎)の最大の環境要因である(図1)。さらに、インプラント治療の失敗や歯の喪失、う蝕(むし歯)の発生にも関与することが知られている。一方、受動喫煙においては、子どものう蝕の発生に影響を及ぼすことが報告されている(図2)。

図1 能動喫煙の健康影響(文献1より転載、一部改変) 図2 受動喫煙の健康影響(文献2より転載、一部改変)

近年の喫煙に関する重要課題は、加熱式タバコの使用増加である。令和5年国民健康・栄養調査によれば、20代および30代の喫煙者においては、燃焼式タバコよりも加熱式タバコを使用している割合が高い(図3)。加熱式タバコの使用者のなかには、従来の燃焼式タバコよりも健康へのリスクが低いと誤認している者が少なくない。しかしながら、加熱式タバコには、たとえ有害化学物質の量が燃焼式より少ない場合でも、新たな化学物質が含まれており、それらの曝露が微量であっても疾患リスクが低下するという科学的根拠は示されていない。また、禁煙のステップとして燃焼式タバコから加熱式タバコへ移行することにも問題がある。加熱式タバコには、燃焼式タバコと同量のニコチンが含まれており、ニコチン依存やタバコ依存が持続する可能性がある。さらに、加熱式タバコで満足度が得られない場合、再び燃焼式タバコへ戻ることもある。すなわち、加熱式タバコへの切り替えは、禁煙支援とはならないのである(表1)。

図3 現在習慣的に喫煙している者が使用しているたばこ製品の種類〔20歳以上、性・年齢階級別〕(文献3より転載)
表1 学会の注意喚起で指摘があった加熱式タバコの問題点(文献4より転載、一部改変)

タバコの影響は、口腔内に顕著にあらわれやすい。歯や歯肉の着色といった視覚的に確認できる変化に加えて、口腔乾燥や口臭など、感覚として自覚しやすい変化も含まれる。とりわけ歯の色や口臭は、多くの人が関心をもつ重要な要素である。実際に、若年層の就労世代の喫煙者を対象とした禁煙イベントにおいて、口臭検査を実施し、その結果をタバコと歯周病リスクと関連づけて説明したところ、禁煙の意思に影響を与えることが示唆された5)。また、歯科では受動喫煙によるう蝕や歯周病・歯肉着色を通じてリスクを説明できることも特徴である。さらに、加熱式タバコの健康リスクが問題となる子どもや若年女性と接する機会が多いため、歯科医療者による働きかけは禁煙の動機づけ支援の有効な手段となり得る。このように、タバコによる歯や口腔への影響を活用することは、禁煙の動機づけにおいて大きな力を持つ。

  1. 国立研究開発法人国立がん研究センター.喫煙と健康:望まない受動喫煙を防止する取り組みはマナーからルールへ(2020年4月).4.https://ganjoho.jp/public/qa_links/brochure/leaflet/pdf/tabacoo_leaflet_2020.pdf〔2025.7.7参照〕※外部のウェブサイトへ移動します
  2. 前掲書1.5.
  3. 厚生労働省.令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要.22.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf〔2025.7.7参照〕※外部のウェブサイトへ移動します
  4. 埴岡隆,谷口奈央.第7回 加熱式タバコの知識〔前編:加熱式タバコ製品の知識〕.デンタルハイジーン.43(9),2023,1002–10.
  5. Yatabe N. et al. Oral-malodor measurement and intention to quit smoking in men:a before-after study. Tobacco Induced Diseases. 21, 2023, 95.

03 「食生活」の影響

特定健診・特定保健指導では、2018年の改訂以降、標準的な質問票に「Q13. 食事をかんで食べる時の状態はどれにあてはまりますか」が加えられている。噛むことが困難になると、あまり噛まなくてもいい食品、すなわち柔らかく、咀嚼(そしゃく)を要しない食品から栄養を摂取する傾向が強くなる(図4)。このような食事は、一般的に脂質や糖分が多く含まれることが多く、肥満を助長し、メタボリックシンドロームのリスクを高める。さらに、柔らかく糖分の多い、かつ繊維質の少ない食事はプラーク(歯垢)の蓄積を促進し、う蝕や歯周病、さらには口臭のリスク因子ともなる。咀嚼機能の低下が認められた場合は、早期の歯科受診による口腔機能の回復が不可欠である。
加えて、食べ方そのものにも着目する必要がある。標準的な質問票では、「Q14. 人と比較して食べる速度が速い」といった設問が設けられている。いわゆる「速食い」は肥満と密接な関係があるとされており7)、その背景には食行動の習慣や嗜好に加えて、「噛めない」ことが一因となっている可能性も否定できない。日頃からよく噛み、ゆっくり食事をするという意識づけは、健康維持にとって重要であり、そのためには健全な口腔機能が備わっていることが前提となる。
間食における甘味食品の頻繁な摂取(標準的な質問票「Q16. 朝昼夕の3食以外に間食や甘い飲み物を摂取していますか」)は、う蝕および肥満の共通のリスク因子(コモンリスクファクター)である。砂糖とう蝕との関連性は明白であり、特に歯に付着しやすい形態の食品は、う蝕のリスクが高い。これらの食品はプラークの形成および蓄積を助長し、結果として歯周病のリスクも高める。
また、高齢世代においては、「よく噛むこと」が要介護予防に資することが示されている。食生活の乱れは、口腔機能低下(オーラルフレイル)→サルコペニア(筋肉の量・質が低下した状態)→フレイル(加齢による心身機能の低下)→要介護へと進行する一連の過程につながる(図5)。高齢就労世代に対しては、フレイルの入り口であるオーラルフレイルを早期に発見し、咀嚼機能に加え嚥下機能も含めた口腔機能の回復を図ることで、健全な食生活への再構築を支援することが求められている。

図4 生活習慣病対策と歯科(文献6より転載、一部改変)
図5 オーラルフレイルとは(文献8より転載、一部改変)
  1. 公益社団法人日本歯科医師会.「歯科」からのメタボ対策.
    https://www.jda.or.jp/metabolic/pdf/document.pdf〔2025.7.7参照〕※外部のウェブサイトへ移動します
  2. Otsuka R. et al. Eating fast leads to obesity:findings based on self-administered questionnaires among middle-aged Japanese men and women. Journal of Epidemiology. 16(3), 2006, 117–24.
  3. 一般社団法人日本老年医学会ほか.オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント.老年歯学.38(4),2024,E88.
    https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/pdf/20240401_01_01.pdf〔2025.7.7参照〕※外部のウェブサイトへ移動します

04 「飲酒」の影響

アルコール飲料が口腔がんのリスクになることは報告されている。一方で、アルコール単独でのリスクについてはまだ明確ではなく、喫煙との併用によって発症リスクが著しく高まることが強く示唆されている。これに関しては、アルコールが口腔粘膜の透過性を高めることで、タバコに含まれる発がん物質が浸透しやすくなることが、一因として考えられている。また、アルコールとう蝕や歯周病との関連については、現時点では明確なエビデンスは得られていない。
このように、タバコに比較して、アルコールが直接的に口腔の健康に与える影響は限定的とされるものの、国際歯科連盟(FDI)は、2024年に「Alcohol as a Risk for Oral Health(口腔の健康に対するリスクとしてのアルコール)」という声明を発表している9)。この声明では、アルコールの口腔への影響として、以下の3点が挙げられている。

  1. 口腔組織への直接的な影響:口腔がんのリスク、唾液分泌の減少、アルコール飲料に含まれる糖分と酸の影響によるう蝕・歯周病・酸蝕症(さんしょくしょう)など。
  2. アルコール関連の全身疾患を有する患者への歯科治療の影響:例えば肝硬変、大腸がん、乳がん、胎児性アルコール症候群などを患う患者に対する歯科的配慮の必要性。
  3. 社会的・経済的影響:アルコール乱用により生じる家庭内暴力(顔面損傷や歯の外傷)、自己放棄、失業などがもたらす影響。

これらを踏まえ、FDIはタバコと同様に、歯科におけるプライマリ・ケアの現場で、「すべての患者のアルコールの摂取状況の把握と記録を行うこと」「アルコールが口腔および全身の健康に及ぼす悪影響についての認識を高めること」さらに「アルコール関連の健康被害の早期発見と予防の促進、そして摂取量の削減または中止を促す短期的な介入を一貫して実施すること」を推奨している。

  1. FDI World Dental Federation. Alcohol as a risk for oral health. International Dental Journal. 74(1), 2024, 165–6.
  2. 埴岡隆,谷口奈央.第1回 禁煙支援に活かす喫煙・禁煙の健康影響とその活用―加熱式タバコ対応のための基本知識―〔前編〕.デンタルハイジーン.43(3),2023,275-80.

文責:メディカ出版

法人向けウェルビーイングサポートサービス
「おくちプラスユー」

5つのサービスを見る

サービスご提供者数50,000名突破!
多くの企業様、健康保険組合様に
導入いただいております。

導入事例はこちら

従業員の健康意識向上のために
おくちプラスユーのサービスを導入
してみませんか?

法人向けウェルビーイングサポートサービス
「おくちプラスユー」はこちら

資料ダウンロード

お問い合わせ

当サービスが気になる方・申し込みを
検討されている方は、
お気軽にお問い合わせください。

その他おすすめのコラム

サイトTOPに戻る